大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和56年(ラ)963号 決定 1982年1月18日

抗告人 東京都共栄商業協同組合

右代表者代表理事 松河松雄

右訴訟代理人弁護士 真木吉夫

相手方 園部邦次

主文

原決定を取消す。

本件担保取消の申立を却下する。

理由

抗告人は「原決定を取消す。本件担保取消の申立を却下する。抗告費用は相手方の負担とする。」との裁判を求め、その理由は別紙「抗告の理由」のとおりである。

本件記録によれば、相手方は抗告人に対し、立替金債権を有するとして、原審裁判所に抗告人の預金債権つき債権仮差押申請(昭和五四年(ヨ)第一三八八号事件)をなし、金三〇万円の保証をたて同仮差押決定を得て執行したところ、抗告人は起訴命令の申立をなし、同決定を得ると共に、右仮差押命令の取消の申立をなしたが、相手方が右仮差押事件の本案訴訟である立替金請求の訴(昭和五四年(ワ)第三八一五号事件)を提起したので、右取消の申立を取下げたこと、相手方は、右立替金訴訟で昭和五六年七月二二日敗訴の判決を受け、同年八月七日の経過により右判決が確定したので、右債権仮差押を取下げたこと、その後、相手方は原審裁判所に、右債権仮差押事件で供した保証(東京法務局昭和五三年(金)第一五〇六三七号)について、昭和五六年八月二六日民訴法一一五条第三項の権利行使の催告の申立をなし、同裁判所は抗告人に対して同年九月三日付催告書をもってその送達の日から一四日以内に権利行使すべき旨を催告し、同書面は昭和五六年九月二六日に抗告人に送達されたが、右期間内に抗告人において権利行使をしなかったため、同裁判所は相手方の申立により同年一〇月二一日担保取消決定をなし、同決定は同月二一日抗告人に、同月二二日相手方に各送達されたこと、抗告人は相手方に対し昭和五六年一〇月二九日原審裁判所に損害賠償請求訴訟(昭和五六年(ワ)第一二六九一号)を提起して権利行使をなし、同日これを証明して本件抗告をなしたこと、以上の各事実が認められる。

ところで、民訴法五一三条三項によって準用せられる同法一一五条三項によれば、訴訟の完結後裁判所が担保提供者の申立により、担保権利者に対し一定の期間内にその権利を行使すべき旨を催告し、その期間内に担保権利者が権利行使をしないときには、裁判所は担保取消について同意があったものと看做して担保取消決定をなし得ることは明らかであるが、右担保取消決定の確定前に、担保権利者が権利行使をし、これを証明した場合には、一旦担保取消に同意したものと看做された効果は消滅するものと解するのが相当である。

以上のとおりであるから、原決定はこれがなされた当時においては何らの違法はないが、右決定確定前である昭和五六年一〇月二九日、抗告人において相手方に対し前示損害賠償請求の訴を提起し、権利行使を証明したうえ本件即時抗告を申立てた以上、抗告審裁判所としては原決定を取消し、担保取消の申立を却下するのが相当である。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田中永司 裁判官 安部剛 岩井康倶)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例